山_______

 そこは生きるか死ぬかの格闘場。ジャングル、砂漠、無人島(?)についでのパニック・フィールド。弱肉強食の理に支配された世界。

 猛獣は獲物を求めて闊歩し、小さき物は力の代わりに得た狡猾さで彼らを欺き、脈々と己が子孫を増やしていく。

 なんて純粋で_______

 なんと荘厳な_______

 知恵を得たが故に、人が失った物が・・・そこにはある。

 

 

 

・・・・もっとも、本編にはあまり関係は無いが。

 

 

 

山中異界  第二話

 

著 ランシェオン・カルバレーナ

 

Jury・17 PM2:00 麓の町

 

「よっ。元気そうだな。」

 先日通信機越しで話をした相手、ジョニーが椅子から腰を浮かして渋みの利いた声をかけてきた。いつもの黒服ではなく、ライダースーツを思わせる体にフィットした服を着て、普段は束ねている長髪をポニーテールにしているせいか、十歳ほど若返ったようにも見える。

 町の広場に面してある野外喫茶店で、前日に指定されていた待ち合わせ場所だ。町の直ぐ近くに森があり、そのまま山になっている。

「お前もな。他の団員達は?」

 半そでにジーパン姿の好青年______に変装したテスタメントはジョニーの向かい側に座り、寄ってきたウェイトレスにアイスコーヒーを注文した。ちなみにサキュバスはレモンソーダを頼んでいる。

「適当に遊ばせてる。四十分頃になったら我らの秘密基地に出発だ。ところで・・・・。」

 ジョニーは腕時計に落としていた視線を移動させ、テスタメントの足元で丸くなっている紫色の犬を見、

「そりゃなんだ?」

 と言った。テスタメントはエグゼビーストだ、と答え、ジョニーはサングラスの奥で目を丸くしたようだ。

「器用なやつだな。」

 エグゼビーストは丸くなったまま誇らしげに尻尾を振ってみせる。すっかり気分は犬である。

「ところで、秘密基地ってどんなところなんですか?」

 サキュバスが運ばれてきたレモンソーダのストローを弄くりながら尋ねる。

「ん?まあそのまんま秘密基地だな。聖戦時に作られた人間側の施設で、整備場やらなにやら揃ってたから、居住空間だけ作り直して再利用しているんだ。」

「聖戦時か・・・・・。」

 テスタメントは当時この辺で戦闘をしたことが無かった為、そのような施設があることは知らなかった。未だ機能しているということは、ギアの襲撃は受けなかったと言うことか。

「お、黒服じゃん。」

 声をかけられ、振り向くと眼帯をした少女と目元が前髪で隠れている少女がそれぞれ涼しげな格好で連れ立って歩いてくるところだった。言わずと知れたジュライとオクティである。サキュバスが久しぶりと声をかけ、オクティがこんにちはと挨拶を返した。

「どうした二人とも。」

 ジョニーが尋ねると、手がつけられないままだったテスタメントのアイスコーヒーを強奪したジュライが呆れたように言った。

「何って・・・頭領達がなかなか来ないから迎えに来たんじゃないか。」

「ああん?集合時間は二時四十分だぞ?」

 ジョニーが時計に目を落とす。テスタメントも広場の時計を見てみると、まだ二十五分位だった。

「朝、十五分と言っていましたよ。」

オクティが首をかしげながら言う。気まずい沈黙が流れた・・・・。

「まあ、良いじゃないですか!それならそれで早く行きましょうよ。」

 サキュバスが明るく言い、一行は勘定を済ませて町の外れ、ひいては森の方へ歩いていった。道中サキュバスとジュライ達は楽しげに会話し、滞在中にはこの町の祭りもあるという話をしていた。

 暫くはあった民家もまばらになり、代わりに木々が広がり始めた。いまや賑わっていた町並みは遠く、虫の声が鳴り響く森が近づいている。

「おそ〜いジョニー!」

 少し開けた場所に出、そこにはメイ以下のジェリーフィッシュ快族団の主だった団員が集まっていた。

「いや、悪い悪い。ちょっとした勘違いでな。」

「年なんじゃないの団長〜?」

 大きなツインテールが特徴的なジュンがジョニーを茶化す。他の団員達も苦笑混じりに不平を漏らし始めた。

「サキュ!」

「ノーベル!」

 ゴーグルを額にかけている少女、ノーベルがサキュバスに駆け寄り、右、左と手を打ち合わせた後、指を拳銃のようにして「バン!!」と言い合い、おもむろに「よし!!」と叫んだ。他者から見れば端ただ意味不明である。

「久しぶり!最近の開発はどう?」

「まっかせといてよ!!取って置きの物がニ三程・・・。」

 ひそひそ話しを始めた二人を放っておいて、団員達は犬に化けているエグゼビーストに興味を寄せ、お手、お代わり等の芸をやらせていた。

 テスタメントといえば先程から恋人の姿を探しているのだが、見当たらない。誰かに聞いてみようかと思い始めたところで、視界が塞がれた。続いて妙にくぐもった声で

「だ〜れだ?」

 と一言。テスタメントは苦笑し、塞いだ手を取って、いつの間にか後ろに回り込んだ人物を抱き寄せた。今のような真似をして、テスタメントを戦闘状態にさせない人物は一人しかいない。

「久しぶりだな。ディズィー。」

 視界の端に鮮やかな青髪が翻り、テスタメントの腕の中には探していた人・・・ディズィーが眩しい笑顔を見せていた。いまは他の団員のように、快族団の制服と動きやすそうなロングパンツを着用している。

「ええ。といっても、昨日モニターで会いましたけど・・・。」

 そういいながら、テスタメントに身を預け、彼の背中に回した手でシャツを握り締める。

「やっぱり、嬉しいです。」

 テスタメントは彼女の髪の毛を細い指で弄いながら、そうかと答えた。何か二人とも別の世界に行ってしまったようだが・・・・。

「「うぉほんっ。」」

 という咳払いの多重奏に現実へ引き戻され、テスタメントとディズィーは慌てて離れた。

「そんじゃ、そろそろ出発するか。」

 そんな二人を面白そうに見ながら、一行は山中へ踏み入った。

 

 

 さて、山登りであるが、これが初心者にはつらいものがある。なんといっても腐葉土によって恐ろしいほどふみ応えの無い地面。今一掴みづらい傾斜の角度や窪み、そして木の根。下にばかり気をつけているとえらい目に会うことがある。頭の高さに突き出た枝や、触れるだけで毒素が発生する危険な植物や虫などの存在を見落としたりするのだ。

 空、都市内での活動が中心であるジェリーフィッシュ快族団は、当然のごとく超天然の罠に嵌っていったのだった・・・・・・。

 

 

同日PM03:58 「山中の隠れ家」前方

 

「つ、ついた・・・・」

 誰かが息も絶え絶えに呟く。ジェリーフィッシュ快族団のほぼ全員が足を滑らしたり、しなった枝の一撃を食らったりで、三十分で目的地に着くはずが小一時間かかり、皆満身創痍という言葉を体で表現していた。そんななか、森での暮らしが長かったディズィーや、山内戦の仕方を知っているテスタメントとジョニー、その後ろをついてきたサキュバスと犬型エグゼビーストは、山に入る前となんら変わらぬ姿で、眼前の施設を見ていた。

 壁は白い合成素材でできているらしく、蔦に覆われていないため建物としての若さを感じさせる。全体的に品のある作りで、どこと無く去年利用した無人島の館に似ていたが、それに比べれば随分とシンプルだ。聞けば同じ人物の建築で、ほぼ間取りも同じなのだと言う。館の奥まったほうには、山を掘りぬいて作った軍事施設があるらしく、ジャングルペインティングされた巨大な隔壁があった。

「ジョニ〜あたし喉乾いたよ〜。」

 メイの言葉に、若年層から支持の声が上がる。一行は部屋に荷物を置くのを後回しにして、一服つくことにした。

「それじゃあ、私がお茶を淹れてきます。」

「私も手伝おう。」

玄関ホールのソファアに崩れ落ちた団員たちの為に、ディズィーが申し出、テスタメントが手伝いを買って出た。てんでばらばらの注文を受け、二人でホール正面の食堂に繋がる扉をくぐって行った。

 二人の後姿を観察していた、他の団員に比べれば被害の少ない黒人の少女オーガスが、ボソリと一言、

「新婚夫婦。」

 と言う。その言葉を切欠に、年頃の少女達の目に活力が戻った。

「あの二人ってどこまで行ったんだっけ?」

 今は巻いているバンダナを外している、エイプリルが身を起こしながら言う。

「キスまではしてるよね?未確認情報で一緒に寝たってのがあるけど。」

 長いツインテールを丹念に整えながら、ジュンが答える。確認するようにオーガスに視線を向け、それを受けた長身の少女はこくりと頷いた。

「しかも指輪まで渡されて・・・素敵ね。」

ほぼ瞑っているに等しい細い目の端を楽しげに下げながら、セフィーが言う。

「ねえ知ってる?ディズィーの指輪の石言葉。」

 若い少女の歓談の中に、艶やかな大人の女性フュービーが口を挟む。彼女に視線が集中した。

「『永遠の愛』って言う意味だそうよ。」

「くぅああああ気障だねぇ。」

 ジュライが感想を述べる。

「う〜ん。でもあの人のことだからあんまり意識して無いと思うけど?」

 サキュバスが主人のフォロー(?)をする。それからも談義は続き、今回の宿泊でどこまで関係が進むかというトトカルチョまで始まった。オクティはその様子におろおろし、ノーベルはそれぞれの意見を端末で紙に打ち出す。

「ねえねえ、みんななんの話をしてるの?」

 舌足らずな口調で快族団最年少のマーチが、自分を抱き上げている年嵩の女性リープに質問し、彼女は優しい笑顔を返しながら答えた。

「青春について語り合っているんだよ。」

 その答えに、マーチはキョトンとした後、さっぱり解らないと言わんばかりに首を捻った。彼女たちの様子を、ジョニーは楽しげに見守っている。

「なんだもう元気になったのか。」

 テスタメントとディズィーが帰ってきた。二人はそれぞれ手にした盆に載せた飲み物を配る。ディズィーは何の話をしていたのか聞いていたが、はぐらかされていた。

 

 開け放された窓から、森の香りを纏った風が入り込みカーテンを揺らす。外部との温度差によって、コップの表面に生まれた露がきらりと輝く。

「蘇生したかと思ったら、すぐにまたダウンしたな。」

 テスタメントは呟き、前に垂れて来た髪を後ろに払う。リボンは山に入るに至って、はずして丁寧に鞄の中に入れてあるのだ。

「まあ、山登りは辛いものがありましたから。」

 ディズィーが答える。こちらは髪の毛を丁寧に束ねて、大きな黄色いリボンで見慣れた髪型にしている最中だった。

 彼らは並んで空いていたソファーに腰掛け、閑散としてしまった玄関ホール内を見るとなしに眺めていた。ディズィーの言うとおり、比較的体力の少ない物から会談の最中で眠り始め、そうでない者達は相部屋の人物とその荷物を持って自室へ向かった。ちなみにこの館は三階建てで、一階は主に娯楽施設。二階は客室。三階は物置小屋があり、それぞれの階へはこの玄関ホールから直接移動できる。そして、今この場所は先ほど海賊帽を被った黒猫のジャニスが通った以外は人の行き来は無く、黒髪と蒼髪の二人がくつろぐのみだった。

「・・・」

「・・・」

 先程の会談で、お互いの話題が尽きてしまったせいか今一会話の機会がつかめないでいた。テスタメントは無意味にコップに纏わり付いた露を払い、ディズィーはリボンを指先で弾いている。

「その・・・」

「はい!?」

 隣席からの突然の言葉に、ディズィーは物凄い勢いでリボンを捩じる。その様子にテスタメントは驚いたように眉を上げた。

「ここは、だれかが管理していたのか?見たところ綺麗だが。」

「ああ、それはですね・・・」

 去年の事を思い出しての発言に、ディズィーは答える。施設の所有者はジェリーフィッシュ快族団だが、ジョニーは知り合いの義賊仲間にも貸し出しているそうだ。つい最近まで一団が逗留していたため、掃除などは最低限で済んだのである。

 テスタメントはそうか、と言い、今度は別のことを少女に尋ねた。

「そういえば、ディズィーの部屋はどこなんだ?私は07番だが。」

「え?あ、そういえば番号を確認していませんでした・・・・・・・!?」

 ディズィーは先程配られた部屋の鍵を取り出し、番号を確認したとたんに硬直し、見る見る間に赤くなっていった。

「・・・どうした?」

 火でも付きそうな彼女の様子に、テスタメントは心配になって声をかけた。ディズィー俯いたまま、黙って鍵を見せた。しゃれた作りの頭部には、精緻な透かし彫りで

「07番!?」

 そう刻まれていた。

 

「この部屋か・・・」

 一つのドアの前で、テスタメントとディズィーは立ち止まった。重厚な茶色のドアには、妖精と草花を抽象的に描いたプレートが取り付けられ、テスタメントが手に持った鍵と同じ番号、つまりは「07」の数字が浮かし彫りで表示されていた。

 あの後テスタメントは部屋割りを決めた張本人であるジョニーの部屋に殴りこもうとしたのだが、ディズィーに恥ずかしげに「私は相部屋でも構いません・・・。」と止められ、渋々と二階のこの部屋の前までやってきたのである。

 鍵を差込、くるりと回せば、軽快な音が響いて部屋の中に向かってドアが開く。部屋の作りは2LDKで、リビングとベッドルームが分かれており、ユニットバスがリビングから入れた。そういえば、館の案内に温泉という文字があったような・・・・。

二人はとりあえず荷物をクローゼットに置き、夕食の時間を待つことにした。双方、落ち着きが無い。

「あ、そうだ。」

 ディズィーが思い出したように手を打ち合わせ、荷物の一つ、砂時計上のケースを持ってき、中からヴァイオリンに似た楽器のビオラを取り出した。

「聞かせる約束でしたね。」

「何を弾くんだ?」

「テスタメントさんが教えてくれた曲を。」

 そういうと、チューニングをして音を合わせ、緊張した面持ちで演奏を開始した。

手に持った弓の動きと、押さえた弦によって作り出される振動が、ビオラ全体に伝播して音色を作り出す。音は奏者の思い描いた通りにメロディを紡ぎ、奏者の心と一つになって演奏という形になった。ディズィーの表情も、緊張していたものからリラックスしたものに変わり、楽しげに指先を弦の上で踊らせ、弓を動かす。

 テスタメントは彼女の演奏を、目を瞑って聞いていた。悠久の時を超えて伝えられてきた人の曲は、彼の耳に、そして琴線に心地よく響いた。

 テスタメントの暗記している、最後の音を奏で終えて、ディズィーは余韻に浸るように静かにビオラの構えを解いた。再び緊張した面持ちになり、不安そうにどうでしたか?と尋ねてくる。

「良い演奏だったよ。それに・・・」

 テスタメントそこで言葉を切ると、優しい視線でディズィーを見た。

「音楽は楽しむ物だから、お前が楽しんで演奏することができるのが一番良い事だ。」

 ディズィーはその言葉に驚いた風だったが、にっこりと笑ってテスタメントの言葉を肯定した。そして手に持ったビオラを差し出し、

「一曲どうですか?」

 と尋ねてきた。テスタメントは頷き、座っていたベッドから立ち上がって渡された弦楽器を自分が使いやすいように音合わせをする。

 まもなく07号室から、静かな旋律が紡がれていった。

 

 

同日 PM07:34 「山中の隠れ家 一階玄関ホール」

「ダウト!!」

「くくく!馬鹿めが食らうがいい!」

「ぎゃぁぁぁ!!十枚追加!!?ってだれよ3のときに5だしてたの!?」

「・・・・ふ。」

「てめえか黒服!!」

 怒りの声もどこ吹く風のテスタメントに、ジュライが拳を握り締める。その様子を同室のフュービーがなだめながら、ゲームは進行していった。現在登山の疲れから開放された一味は、メイとサキュバスの提案でダウトをすることになった。が、さすがに人数が多いので部屋割りでタッグを組んでいる。ちなみに部屋割りを説明すると、メイとエイプリルが01、オクティとオーガスが02、ジャニス、マーチ、リープが03、ノーベルとサキュバスとエグゼビーストが04、セフィーとジュンが05、ジュライとフュービーが06、テスタメントとディズィーが07、ジョニーは一人部屋で、団員たちとは離れた位置にある頭領室と言う部屋で生活している。

「ちっ。覚えてろよ・・・。」

 ジュライがそういい、フュービーがカードを切って、「7」と宣言する。先ほど一斉にカードが集まったせいか、ダウトを仕掛けるチームは居なかった。

「ほ〜れ8っと。」

 ジョニーが軽い調子でカードを切り、セフィーチームも続く。暫く沈黙が続き、またカードが十枚程たまり始めた。ここからが勝負である。

「・・・5。」

 オーガスがカードを切り、相変わらずの無表情で他チームを見渡す。彼女たちの札は、既に二枚だけになっていた。

「なしね?じゃあは・・・・・じゃなくて6!!」

「「ダウト!!」」

 マーチがカードを切った際のいい間違いに気付いたのか、メイとエイプリルが見事にハモって叫んだ。しかしリープが不敵な顔でカードをめくると・・・・そこには6の模様が描かれていた。

 ず〜んと沈み込む二人が7と思われるカードを出し、再びオーガス、オクティ組の番が回ってきた。オーガスは静かな声で「8」と言う。彼女たちのカードは残り一枚。緊張が流れる。次のチームのカードが切られようとした瞬間_______

「異議あり!!じゃ無かったダウト!!」

 と、サキュバスが叫ぶ。オクティはビクリと肩を揺らし、オーガスはチロリと汗を流した。結果は・・・・・11、ダウト成立だ。幾分悔しげな様子でオーガスが腕を組み、オクティが9と思われるカードを切る。そのまま順は進み、いよいよ何組かの持ち札は一枚だけになった。ちなみに普通にこのゲームを行うと長いので、特設ルールとして三チームがあがったら終了ということにしている。

「ええと、8です。」

 ディズィーがカードを切る。

「ダウト!!」

 ジョニーがズビシッとカードに人差し指を突きつける。ディズィーはあくまでポーカーフェイス。彼女の変わりにテスタメントはカードを持ち上げ、静かに言った。

「五月の借りを返していなかったな・・・・。」

 するりとカードを表にすると、そこにはクラブの8が描かれていた。ディズィーが胸にためていた息を吐き出し、この勝負はテスタ、ディズィー組の勝利に終わった。

 

 夜も更け、ダウト、ポーカー、ブラックジャックと続いたトランプ対決も終わり、テスタメントとディズィーは自室に戻っていた。テスタメントはソファに座って持ち込んだ本を読み、ディズィーは備え付けの机に向かって、なにやら日記らしきものをつけている。暫く二人はそのままだったが、やがてディズィーはペンを置き、ノートを閉じてこちらの様子を伺い始めた。テスタメントが視線に気づいて顔を上げると、ディズィーは言いにくそうに切り出した。

「お風呂・・・どうします?」

 その問いに、テスタメントは滅多に働かない悪戯心を動かして、本の中の台詞で答えた。

「一緒に入るか?」

 一瞬ディズィーは何を言われたのかわからなかった様だったが、みるみる赤くなっていった。

「な,な・・何を・・・・・。」

 言葉にならないらしく口をあけたり閉めたりしている。テスタメントはその様子が可笑しくて、声をだして笑いそうになるのを堪えなければならなかった。からかわれたのだと気付いてディズィーは頬を膨らまし、未だうつむいて笑い声を抑えているテスタメントに近づいた。

「テスタメントさん?」

「ん?」

 顔を上げたテスタメントは涙目になっていた。ディズィーは素早く、彼の両頬を手で押さえ、形のいい唇に自分の唇を重ねる。しばしの沈黙_____。

 やがてディズィーは唇を離し、唖然としているテスタメントに向かって頬を染めながら叫んだ。

「変なからかい方をしないで下さい!」

 そうして、ディズィーはバスルームへ行ってしまった。後に残されたテスタメントは、扉が閉まる大きな音で覚醒し、一人呟いた。

「・・・本の内容がぶっ飛んでしまった・・・。」

 微妙に頬に赤みが差しているように見えるのは、明かりの照り返しのせいだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

後書き

 長らくお待たせしました。え?待ってない?・・・(汗)。とりあえずやりたいことはやったので満足です。まだ続きますけど。次は山の遊び方ですかね?(きいてどうする・・・。)亀執筆ですいません・・・。メールも使用不能になりアカウントとるのも一苦労でした・・・。