「留守番、奴等に任せて大丈夫なんだろうな?」

「心配無用♪俗世離れした人たちですから♪♪エグゼちゃんもいるし。」

 その言葉に、テスタメントは住居を振り返った。そこには、人を超越した存在と、ある意味超越してしまった者が留守番がてら宴会をしている。

「秘儀、省エネモード!!」

「今のギャグは中々だ。」

「ビバ私!!」

「ワハハハハハハハハハ!!」

 異様な空気を察知したのか、森の動物たちはここにはいない。テスタメントは軽くため息を吐いてからサキュバスに言った。

「わかった。信用するとしよう・・・。では、行くぞ。」

「ハイハイ♪」

 歩き出した二人は、陽炎のように揺らいで、消えた。

目指すは、大空のパーティー会場_____。

 

 

清しこの夜  〜パーティー篇〜

 

著:ランシェオン・カルバレーナ

 

 

 December:25   PM7:00 ???地点上空2000ft:メイシップ 

 

 空間から染み出るように、今夜のゲストが現れた。長髪をリボンで纏め、軍服じみた黒い燕尾服にコート、皮の手袋といういで出立ちだ。小脇に花束を抱えていなければ、どこぞのマフィアの若頭に見えなくもない。隣の使い魔は中世の貴族が着るような度派手なドレスを着ている。

「この度は、パーティーへの招待、感謝する。」

 無表情に言っているが、視線が虚ろだよ旦那。心此処にあらずだな。

「よく来てくれたな。まあ、中に入ってくれや。」

 風が吹く中、船内へ続くドアをくぐる。その間も、テスタメントは落ち着かない様子だった。

・・・まるで子供のようだ・・・。

心の中で苦笑する。

 

 真紅のタキシード姿のジョニーに出迎えられ、入り組んだ通路を抜ける。目的地に近づいていく中、テスタメントは悶々としていた。プレゼントは用意した。それもとっておきの物を。だが、はたして受け取って貰えるだろうか・・・。そんなことを考えているうちに、パーティー会場たる食堂に着いてしまった。

 ドアを開けると、様々な色が視界に飛び込んできた。それぞれのテーブルに並べた蝋燭立てや美味しそうな料理、光を跳ね返して輝く金銀細工、壁にかけられた「HAPPY BIRTHDAY!!」という看板。そして、各々着飾った団員達。そのうち何人かが、こちらに気付いた。

「おお、黒服、元気だったか〜?」

 眼帯の少女、ジュライが片手を挙げてくる。どういう訳か男装しているが、よく似合っていた。

「お花もって来てくれたんですね。ありがとう。」

 大人の雰囲気漂うイブニングドレスを着たフェービーが、にこやかに挨拶をする。

「ああ、いや・・・ところでディズィーは?」

 プレゼントを入れたポッケトを触りながら、テスタメントがたずねる。

「リープさんに着替えを手伝ってもらっているはずだよ。そろそろ来るんじゃないかな。」

 エイプリルが言う。彼女も男装しているが、ショッキングピンクのダンス衣装であるため、少し目が痛い。

「ドレス着るのは初めてだって喜んでいましたよ。」

 鮮やかな翠色のパーティードレスを着たセフィーが、楽しげに言った。

「・・・・何期待しているんです?」

 使い魔が小さな声で聞いてきた。睨みつけてやろうと思って振り返ると、サキュバスの姿は無く、テスタメントは視線を彷徨わせる事になった。

その視線が、扉のひとつに注がれる。中から、二人の女性が出てきた所だった。

 

 シンプルなエプロンドレス___いつもと大して変わらない格好のリープと一緒に入ってきたディズィーは、テスタメントの目には別人に見えた。

長い髪をアップにしているため、綺麗な顔のラインが見える。化粧をしているのか、大人っぽい顔立ちになっていた。着ているのは布の襞を通して蒼から水色に変わるカクテルドレスで、右肩から足元にかけて花の飾りが特徴だ。胸元では、去年テスタメントがあげたロザリオが光っている。

 

「誕生日おめでとう!!」

 団員達が次々と祝福の言葉を投げかける。それらに丁寧に感謝の礼を述べながら、彼女はテスタメントの方へやってきた。

「お久しぶりです。テスタメントさん。」

 微笑みながらの一言。

「あ、ああ・・・。今年の夏以来か。誕生日おめでとう。その・・・」

 多少どもりながら、テスタメントは続けた。

「ドレス、よく似合っているぞ。」

 もう少し気の利いた台詞が言えないのかと思うが、この辺が自分の限界である。それでもディズィーは喜んでくれた。

「本当ですか?良かった・・・。実は、結構高かったのです。」

くるりと回ってみせる。それからテスタメントのことをじっと見て、

「テスタメントさんも、貴族みたいで素敵ですよ。」

 そう言った。少しこそばゆい感じである。

「よし、面子も揃ったし、始めるか!」

 かくして、宴が始まった。

 

 

「「一気一気一気一気!!」」

 掛け声と共に琥珀色の液体が一息に嚥下されていく。同時に空になったジョッキをテーブルに置きながら、ジュライとサキュバスが叫ぶ。

「「もう一杯!!」」

 少し前に始まった二人の飲み比べにより、食堂は沸きに沸いていた。既に二人の飲酒量は酒樽一個分を越えており、サキュバスはともかくジュライは二日酔い間違いなしだろう。

「お酒って美味しいのですか?」

 ディズィーが手品でも見ているような視線で二人をみている。あれだけ飲んだら飽きるのではないだろうか?

「人それぞれだと思うが・・・・あの量は間違いなく健康を害するな。」

 テスタメントは科学者めいた視線でジュライの事を観察している。人間の神秘を目の当たりにしているようだ。

「・・・飲んでみたいのか?」

 憧憬にも似た表情で二人の姿を見る少女に尋ねる。彼女は上目使いでテスタメントのことを見た。

「駄目・・・ですか?」

「子供には早い代物だぞ?」

 その言葉に、ディズィーは頬を膨らませた。

「もう!子供扱いしないでくださいよ!」

 そっぽを向いてしまう。そういう所が子供なんだ、と指摘したかったがむくれている顔が可愛くて止めた。すると____

「ヒック・・・・なるぁ挑戦してみるくぁい?・・・ヒック。」

 ジュライが管を巻いてきた。手に持った白ワインが注がれたグラスを突き出す。

「やめろ。ディズィーはまだ十代でもないんだぞ。」

 テスタメントがすかさずグラスを奪い取る。

「ぬあにお〜う?!このめでたい日の主役にしゃけもとらせにゃいとはきさまなにさまのつもりだ!!?」

 呂律が妙な事になっているジュライがグラスを奪おうとする。相手をしている内に、手の中からグラスの感触が消えた。

「む・・・?」

 訝しく思って振り返ると、ディズィーが中身を透かすようにしてグラスを眺めていた。唖然としているテスタメントにむかって悪戯っぽく笑いかけながら言う。

「折角だから頂きますね。」

 グラスを唇につけ、一気に流し込んで________

 そのまま倒れた。

 

「だからいっただろう、まだ早いと。」

 コップに水を注ぐ。グラス一杯のお酒で目を回してしまったディズィーを、テスタメントが医務室に運んできたのだ。

「ほら、飲みなさい。」

 ベッドに腰掛けた少女にコップを渡す。一口二口と口に運び、人心地つくと、彼女はコップを両手で弄いながら呟いた。

「・・・・お酒って・・・熱いのですね・・・。」

「熱いどころか苦いものもあるぞ。」

 俯く少女の抱き寄せ、上を向かせる。先程の酒のせいか、頬が赤みを帯びている。

「もう少し大きくなってから、な?」

 あやす様に言うと、ドレスアップしている少女は恥じるように頷いた。

「・・・そうだ。」

 テスタメントは燕尾服の内ポケットからラッピングされた小箱を取り出す。

「プレゼントだ。」

緑色の包装紙で包まれた箱を受け取る。目で促されて、ディズィーは丁寧にラッピングを剥がし、中に入っていた小箱を開ける。

「これは・・・?」

 ディズィーは思わずテスタメントのことを見上げた。そこにあったのは、かなり年季の入った指輪だ。年を重ねて柔らかく光る銀のフレームの中に、薄紅色の宝石がはめ込まれている。

「ある人から譲り受けたものだよ・・・。その人は、私に生きる意味と道を教えてくれた人だ。」

 指輪のことをテスタメントは静かに語った。

目を閉じなくても思い出すことができる、それは彼の心の一角を占める人だ。この指輪は、テスタメントが十五になったときに渡されたものだった。

____好きな人ができたら渡してやれ。

 赤くなった自分を見て、鬣のような白髪を揺らしながら笑った。後でわかったことだが、この指輪は若い頃の彼が、今は無き妻の為に送ったものだそうだ。

「いいのですか?そんな・・・大切な物を私に・・・。」

躊躇するように、ディズィーが言う。

「お前に受け取って欲しい。」

 優しくテスタメントが答えた。小箱に置かれた指輪を取り上げ、彼女の左手を取る。

 指輪は、ぴたりと薬指に嵌った。

「テスタメントさん・・・」

 目に涙をため、ディズィーが見上げてくる。

「ありがとうございます・・・・。その・・・・大好きです。」

「私もだ・・・。ディズィー。」

 テスタメントは、傍目にわかるほどにはっきりと微笑んだ。

簡素なベッドの上で寄り添う二人は、そのまま唇を重ねる。

 

 

 

 

 

 

 最初に異変に気付いたのはテスタメントだった。長い一度目のキスを終え、二度目に入ろうとしたところである。

赤面したディズィーに静かにするように合図し、音も気配もなく廊下へ続くドアに接近する。

 こちらからは引くことになるドアノブに手をかけ、回すと_______

 案の定団員+夢魔達がなだれ込んできた。焦り、ばつの悪そうな顔、死を覚悟した清らかな表情など、様々な顔がこちらを見上げてくる。

絶句するディズィー。その顔は夕日の如く真っ赤になり、俯いた。

「貴様ら・・・・・・・・・」

 テスタメントは青筋が浮かんだ鉄面皮で、倒れこんだ出歯亀達を見る。その声音は、暖房のきいた船内にアイスエイジの到来を感じさせるほど冷たい。

「遠慮という言葉を知らんのか!!!!」

 怒号が、船内に響き渡る・・・・・・。

 

 

 

               了

 

 

後書き

 またどたばたもので来てしまった・・・。なんというかこういう雰囲気が好きですね・・・・駄文ですが(汗)。ていうかクリスマスから一ヶ月以上たっていますね・・・。テスタはディズィ子のことを何気に子供扱いしているし・・・。色々捏造してるし・・・。ああ!雪玉に石を詰めないで!!

 ・・・・気を取り直しましょう。指輪の石ですが、クンツァイトという石をモデルにしました。結構他にも候補があったんですが、これが二人の特性上、一番合うかなと思いまして・・・・。

  新年明けましてというのももう遅いですが、これからも宜しくお願いします。それでは〜。