ギアのクリスマス3
著:ランシェオン・カルバレーナ
12月25日PM6:27「悪魔のすむ森」
暖炉の前に置いてもらった安楽椅子に座りながら、テスタメントはぐったりしていた。それは連続であまりにもクリスマス♪な風景を見せつけられたせいである。こういう雰囲気はガラではないのだ。
暖炉の中で燃え盛る火___靴下は無視することに決めた____をぼんやりと眺めながら、テスタメントは後ろで駆け回っている人物にたずねた。
「・・・・・サキュバス・・・・・。」
問われた人物・・・サキュバスはサンタ服にブーツ、サンタ帽と珍妙な格好をしていたが、それすらも彼は無視することにしているらしい。にこやかに微笑んでいる相手に向かって、テスタメントは尋ねた。
「どうしてそんなにクラッカーが欲しいのだ?」
彼が指摘したとうり、彼女は大皿に山盛りのクラッカーを手に持っていた。どう考えても、少人数で行われる今日のパーティーでは必要のない量だ。もっとも、それを言えば小屋の増築も必要のないものだが。
その当然といえば当然過ぎる疑問に、彼女は
「多いほうがいいじゃないですか♪」
と答えた。頭痛と眩暈が同時に襲ってきたような気がしたが、その鎮痛な気持ちも、サキュバスの次の言葉で吹っ飛んだ。
「あ、そうそう。今日私の知り合いが来ますから。6時半に。」
「・・・・・なんだと!!!」
それまでの欝な気持ちを吹き飛ばさんばかりの勢いでテスタメントは立ち上がった。こいつの知り合いといえば・・・・
「まさかあの闇医者を連れて来るのではあるまいな!?それとも額にハートを付けた変体か!?さぁはけぇ!!」
ずいぶん前に彼らを連れてきた時のことを思い出しているのか、凄まじい形相で掴み掛かってきた手をかわしながら、彼女は答えた。
「やだなぁそんなわけないじゃないですかもっとちゃんとした人達ですヨ大丈夫私が保証しますヨ・・・」
「棒読みでそんなことをいうなぁ!!」
そうこうしている内に6時30分を告げる鐘の音が聞こえた。つづいてドアノッカーが鳴らされる。
ギココココと首を回して、テスタメントは開け放たれている玄関への扉の奥を見つめる。
その顔には恐怖の色が見え隠れしていたが、意を決したかのように生唾を飲み込むと玄関へと向かう。よほどサキュバスのことを信頼していないのか、足音を完璧に消していた。
ゆっくりとドアノッカーを握り締めると、一気に開け放つ!!
そこに立っていたのは、大小の白い丸を二段重ねにした___。
「・・・雪だるま・・・・・・?」
呆けたようにテスタメントは呟いた。その言葉のとおり、彼の目の前にはクリスマス帽をかぶり、マフラーをまいた巨大な雪だるまが鎮座していた。彼は思わず「スノーマン」という童話を思い出したが、その思いは突然聞こえてきた懐かしい声に遮られた。
「テスタメントさん!!」
その声と共に、雪だるまの影から飛び出した影に抱きつかれ、テスタメントは転びかけた。しかし、その声と表情が驚きに満ちていたのは、突然抱きつかれたからだけではない。抱きついてきた相手がとても懐かしくて、とても大切な人物だったからだ。
「ディーズィー!?なぜここに!?」
どうにか踏み止まってから彼は聞いた。視線を下げれば、随分前は毎日顔を合わせていた、青髪の少女の顔がある。その可愛らしい顔は、今は満面の笑みを浮かべていた。
いまいち状況が掴めないテスタメントに、助け舟を出したのは渋い男性の声だった。
「いよぅ。旦那ぁ。約束道理酒を酌み交わしに来たぜぇ」
「ジョニィー?これは一体・・・・」
ディーズィーに抱きつかれたままテスタメントはますます困惑した。ただ一つ分かったことは、ジョニィーが浮かべた笑みから察するに自分がどうやらはめられたらしいということだ。
「今度この辺りで活動することになったんでなぁ、今日はクリスマスだし、ディーズィーの誕生日だろ?だったらこの子と関係があるお前んとこでやろうってことになってな、サキュバスに連絡をとって準備をして貰っていたのよ。」
「聞いていなかったのですか?」
不思議そうにディーズィーが尋ねてくる。そう聞いて、やっと合点がついた。同時に嘘だとも思う。絶対口止め・・・いやグルになって黙っていたに違いない。サキュバスやエグゼビーストの動きが芝居がかっていたり、コソコソしていたのはその為だったのだ。小屋を増築したり、沢山クラッカーが用意されていたのも、団員十数人を抱えるジェリィーフィッシュ快賊団をもてなすには少ないほどだ。
「と、言う訳でとりあえず中に入れちゃあくれんか?寒いんだが・・・。」
「・・・・わかった。入ってくれ。」
その言葉を待っていたかのようにぞろぞろと団員達が入ってきた。やりすぎ感の漂うサキュバスの飾り付けに、あるものは目を丸くし、あるものは苦笑していた。
それらを一瞥してから、テスタメントは視線を下ろした。そして、
「ディーズィー。そろそろ放してくれ。」
と言った。先程のやりとりの間でも、彼女はテスタメントに抱きついたままであった。
放してくれると思っていたが、彼女はテスタメントの体に回した手に、さらに力をこめて抱きついてきた。驚いているテスタメントに向かって、彼女は小さく囁いた。
「久しぶりに会ったのですよ?もう少しこのままでいさせてください・・・・。」
その言葉を聴いて、テスタメントは罪悪感を感じた。最後に会ったのはもう半年以上前で、しかも話ができるような状況ではなかった。もっとも、彼女が目覚める前にと姿を消したのはテスタメント自身であったが。
彼女の薄い背中に手を回しながら、テスタメントはディーズィーの顔を優しく上げさせた。かすかに涙ぐんでいる瞳を見つめながら。テスタメントは謝罪した。
「すまなかったな・・・ディーズィー。・・・・手を出してくれ」
不思議そうにして差し出された手に、彼はかすかに緊張しながら小さな箱をのせた。
「これは・・・?」
尋ねてくるディーズィーに、わずかに視線をはずしながらテスタメントは答えた。早口に聞こえたのは気のせいだろうか。
「誕生日のプレゼントだ。気に入るといいのだが・・・・。」
あけてくれ、と言われて、ディーズィーは丁寧に包みを開け、箱を開いた。
「わぁ・・・。」
思わず声をあげて、ディーズィーは感嘆した。
箱の中にあったのは、手のひらにおさまる位の大きさのロザリオだった。中心の部分に聖母マリアが彫刻されており、その腕の中には自分の誕生石であるトルコ石が抱かれていた。裏には「Happy Birthday Dizzy」と彫られていた。
「私が昔使っていたロザリオを加工したものだ。・・・・気に入らなかったか・・・?」
不安そうに尋ねてきたテスタメントに、ディーズィーは微笑みながら答えた。
「ありがとうございます。とても素敵です。」
「・・・・・そうか・・・。」
心底安心したように言うテスタメントのことを、ディーズィーは微笑みながら見ていたが、思い出したようにして自分もラッピングされた包みを取り出した。少し恥ずかしそうに言う。
「どうぞ、テスタメントさん。私からのクリスマスプレゼントです。開けてみてください。」
手渡されたプレゼントを見つめてから、包みを開く。すると、そこにあったのは___
「・・・リボン?」
包みの中には、長めの深い青色のリボンが入っていた。両端には銀色の飾り具がついている。
「テスタメントさんの髪の毛って長いから、まとめられる物がいいかなって思ったんです。・・・どう、でしょうか?」
答える代わりに、テスタメントはそのリボンで長い髪を首のあたりで結んでみせる。それから珍しく微笑むと、ディーズィーのことを抱きしめた。それから彼女と向き合うと優しい声音で言った。
「ありがとう。ディーズィー。」
「テスタメントさん・・・。」
わずかに顔を赤らめるディーズィーのことをテスタメントは見つめた。そして、どちらかからか顔を近づけると、ゆっくりと唇を重ねる___________。
ドアが軋みをあげて倒れてきたのは、まさにその時だった。驚いて振り返った時には、ジョニー以下十数名の団員達とサキュバス、エグゼビーストが折り重なるように倒れこんでいた。驚きのあまり声も無い二人に、ジョニーは求められてもいない弁明を始めた。
「か、勘違いするなよ?あんまり遅いんで呼ぼうと思ったらでるにでられない雰囲気だったんでな。決して盗み聞きしようとか、鍵穴から覗き見しようと争いあったわけではないからな?」
まったく反応しない二人に、全員で愛想笑いをしていたが、ジョニーの撤収!という掛け声でリビングに駆け戻っていった。
「まあ、そのなんだ・・・・。」
テスタメントがおもむろに口を開いた。こころなしか頬が赤くなっている。
「リビングに・・・いくか?」
「・・・・はい。」
答えるディーズィーは耳まで真っ赤になっていた。
雪が降っていたが、暖かい夜のできごとであった。
あとがき
疲れました〜。やったらめったら長いし微妙なラブラブ感だったり。穴があったら入りたい気分です。
とりあえず完結です。舞台設定はXXから8ヵ月後くらいです。感想などおありでしたら送ってください。ないて喜びます。それでは、また。